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ココナツの民俗分類

ココヤシの果実と樹木の成長をめぐる名称の変化

ある集団の伝統社会における事物の分類・命名の仕方を民俗分類といいます。人々が社会生活のなかで固有の文化的価値にもとづいて恣意的に環境を切り分ける民俗分類は、必ずしも科学的分類と一致するものではありません。たとえば、日本語でいうブリやボラなどの出世魚の名称変化がそのよい例といえるでしょう。しかし、果樹が成長段階名をもつという例は世界的にもそれほど多くありません。なぜならふつう果実は熟してはじめて利用価値が生まれるからです。熟す以前の果実に人々はさほど関心をよせません。ところが、ココヤシをさまざまな形で利用するツバル社会では、ココナツの名称が成長段階によって以下の図のように6段階に分類されます。

ココヤシの果実と樹木の成長をめぐる名称の変化

ココナツの成長と名称の変化

ココナツの成長と名称の変化

ココナツの成長段階別・部位別用途

ツバル語のココナツの名称が成長段階によってこれほど分類されているのは、人々がそれぞれの段階の果実に文化的価値を見出しているからです。Falefou(2017)では、ツバル人とココヤシの関係を以下のように述べています。

ツバル人の伝統的な暮らしには、ほとんど常に何らかの形でココナツが関連している。男性の日課であるヤシ汁の採取、果実の収穫、ココナツの繊維を使った縄紐作り、女性の日課であるココヤシの葉を使ったござ、籠、うちわ作り。若い女性が作るココナツ料理。子どもたちはココヤシの木の薪を集め、ココヤシでできたほうきで家の中や庭を掃く。ココナツは人々と島の強い絆を結ぶもので、これがなければ、ツバル人はこれほどまで強く土地と結びついてはいなかっただろう。(Falefou 2017)

以下の表は、各成長段階のココナツのどの部位がどのような用途に利用されるのかをまとめたものです。

ココナツの成長段階別・部位別用途
(Koch 1961を参考に橘加筆作成)
ココナツの日本語部位名称
ココナツの日本語部位名称

ココナツの成長段階別・部位別・利用過程別名称

ココナツの成長段階別・部位別・利用過程別名称1 ココナツの成長段階別・部位別・利用過程別名称2 ココナツの成長段階別・部位別・利用過程別名称3

ココナツの成長段階と利用過程による民俗分類

ツバル語では、ココナツの成長段階と利用過程によって名称がさまざまに変化します。以下の3段階の名称は、日常生活でとくによく耳にします。

緑色で未熟のココナツ。胚乳液に甘みがあり飲み頃の段階。ゼリー状の胚乳(agati)は、そのまま食べたり料理に利用したりする。中果皮の繊維は縄紐を縒るのに用いる。
fuāniu
茶色の完熟したココナツ。多岐にわたる利用法がある。厚く、固くなった胚乳を切ったり削り下ろしたりして食べる。削り下ろしたものを搾ってミルクを抽出し、様々な料理に使用する。搾りかすは家畜の餌にする。ミルクを熱してオイルを抽出し、料理に利用したり、髪や身体に塗る。内果皮は、容器や燃料に用いる。
utanu
発芽したココナツ。胚乳液がスポンジ状に固体化する。スポンジ状の部位はそのまま食べたり料理に用いたりする。内果皮の内側についている胚乳は、食べたりオイルとして髪の毛や身体に塗ったりする。果皮は燃料に用いる。

さらにこの3つの段階のココナツには、外果皮を剥いたり、内果皮を半分に割ったり、胚乳を削ったりといった利用過程における実の各部位にもそれぞれ異なった名称が与えられています。下のモデルの最上段の面の円には、ココナツの成長のサイクルが示めされており、pī、fuāniu、utanuの成長段階が示されています。たて方向には上から下に「外果皮を剥く」「内果皮を半分に割る」「内果皮から胚乳を削る」という利用過程が示されており、2~4段目の円にはそれぞれの過程における部位の名称が成長段階別に示されています。たとえば、外果皮を剥いたら、果実は「外果皮/中身」に分かれるわけですが、pīでは「okaga/pī」、fuāniuでは「pelupelu/fuāniu」、utanuでは「pelupelu/utanu」と呼ばれます。

ココナツの成長段階と状態による民俗分類
CC-BY-NC
ツバル言語文化辞典
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